自由研究①
雨。
日本人にとっての雨ってなんでしょう。
先週はどかっと灰が降り、今週はそれがほとんど流れてしまうほどの雨が降りました。雨の予報を見たとき母は、「灰が流れるね、うれしいね」と言っていました。
また、火曜日には即位礼正殿の儀に関連して、ツイッターのトレンドが天候に関することばかりになっていました。とても想像力豊かなツイートもあり、雨が降ったの降らないだので楽しそうだなあと思いました。また、ニュースでも当日の天候には触れていましたね。
「天候に関する話題」はどんな些細なときでも耳にします。初対面の相手とも使えるような話題なので、会話の入り口とも言われます。
今回はこの場をお借りして、私の「天候に関する話題」についてのちょっとした自由研究をお話させていただきます!長くなりますが、どうぞお付き合いください。
日本人というと大きなくくりになってしまいましたが、少なくとも私は、天候を話題にするのは日本人の特徴だと思っています。
発端は、留学したときにニュージーランド人の友人からそう指摘されたことでした。
その日、雨が降っていたので、私が「雨だね」と言うと、友人は「傘忘れたの?」と言いました。傘は持っていたので違うと答えると、なぜ「雨だね」と言ったのか理由を聞かれて、とても困ってしまいました。だって、理由なんてありません。ただ雨が降っているからそう言っただけだったのです。
このことがあってから、私はいろいろな友人に対して「雨だね」と言ってみることにしました。すると、大体の反応は同じで、私の発言の理由を尋ねるものでした。雨に限らず、「暑い」とか「寒い」とか「もうすぐ秋だね」も同じで、彼らの頭には「???」が浮かんでいるようでした。
違った反応は、たったひとりだけ。彼女は、「雨だね」に対して、「私も雨が降ってるのを感じているわ」と返してくれました。
このとき、私はピンと来ました。「雨って感じるものなんだ!」と。
それまで「雨」と「私」は同じ空間にある別々のものだと思っていました。「私」は「雨」をその内外から見ている状態だと。でも、「雨が降っている」ことを認識することで、私はそれを「私自身の感覚」として私自身のものにできます。雨粒が肌に落ちると触覚に伝わるというような直接的な感覚ではなくても、「雨が降っていること」と「私がいること」という本来2つある事象を一つに統合することができるのです。
さらに、こう考えるとちょっと屁理屈っぽく思えるかもしれませんが、「天候の話題=感覚の話題」は、もはやセオリーなんです。もしみなさんが、誰かに「今日は雨ですね」と言われたら何と返事するでしょうか?
「湿気すごくて無理」とか「私結構雨好きなんですよ」とか、「みなさん自身の天候に関する感覚」を返事することが多くありませんか? これは多分、話し手が自身の感覚について発信したことを無意識に察知して、それに合わせてみなさんの感想を述べているのだと思います。「天候の話をされたらそれについての感想を述べる!」という会話の流れは、「雨が降っている感覚を共有している」からできることなのです。
「天候の話題」を持ち出そうとするとき、私たちは、無意識に相手と感覚を共有したいと思っていると言えるのではないでしょうか。そうであれば、「天候の話題」は会話の入り口としてとても適切です。話し手が聞き手の家の玄関を勝手に開けて、上がり込めるか、上がり込めないか。これを見極められるのです。「好き」や「嫌い」などのパーソナルな感覚をまず手に入れられる力が、「雨だね」にはあると思います。そしてそれは、心の距離を近づけるための第一歩だと思います。
「天候の話題=感覚の話題」がセオリー化できたのは、日本語を通じて高文脈文化のコミュニケーションが行われているからだと思います。
それ何? と思われた方は、少し省略しますが、話し手が言いたいことを最後まで説明する必要がない文化だと思ってください。この文化において重要なのは聞き手で、聞き手は話し手の意図を察して答えを返します。なので、話し手は、その意図をわざわざ言葉にしません。「雨だね」というとき、文脈には「あなたはどう思いますか」が含まれていて、聞き手はそれを察しているんでしょう。
こういうわけで、「雨だね」と言うだけでニュージーランド人と感覚を共有することはできません。英語は低文脈文化に分類され、セオリーもないので、もし感覚を共有したいのなら、「雨は好き? それとも嫌い?」と直接的に聞かないといけなかったのです。日本語を英訳するときも、できるだけ細かく細かく述べていくことが大切です。端折ってしまうとうまく伝えられません。
普段何気なく話している話題でも、気をつけてみると日本人の特徴といえるコミュニケーションスタイルを発見することができます。今度「雨だね」と言われたら、「この人は私と感覚を共有したいのだなあ」と思ってください。「好き」や「嫌い」を通り越して、雨の日の思い出を話してみたりしてください。その人との心の距離をぐっと縮めることができると思います。